
納屋の奥に静かに眠っていた、手造りの唐箕。 かつて天草の農家で活躍していたその姿は、今では役目を終え、 木の肌に刻まれた時間とともに、静かに風景の一部となっています。
この作品は、作者が幼少期に唐箕を回した記憶をたどりながら、 その場に漂う空気や光の揺らぎを丁寧に構成した一枚です。
風を起こし、実りを選り分ける唐箕の動きは、 農の営みの中にある“祈り”のような所作として、画面に静かに息づいています。
連作として描かれたこのシリーズは、日展に三度入選を果たしましたが、 現在手元に残るのは、この一枚のみとなっています。
記憶と風景が重なり合うように、 絵の中には、過ぎ去った時間の温もりがそっと宿っており、 鑑賞者の心に、静かな余韻を残してくれる作品です。
この作品は、唐箕をゆったりと画面に据え、藁篭を唐箕の下に配置し柔らぎを与え、左下の鶏で画面を締める・・・という大らかでゆったりした構図である。加えて、暖かい秋の日射しを一杯に感じさせる色調は、見る者に言いようのない和みを感じさせ、波穏やかな日の、あの天草の海に通じる感じがする。(東光会副理事 日展参与 竹留一夫)