
天草の海から生まれた造形詩-油絵に宿る記憶と祈り
宮崎康親の油絵作品に込められた世界観は、天草の海を眺めながら育った彼の原風景と、古代の造形美への深い共鳴によって形づくられています。
宮崎康親の世界観:天草の海と古代の造形美
(1)古代人の装飾美への共鳴
宮崎の作品は、古墳時代の石壁や素朴な装飾画の“稚拙美”を取り入れています。これは、単なる技術的な再現ではなく、人間の根源的な造形欲や祈りのような感覚を絵に込める姿勢の表れです。
天草の自然とともに育った彼にとって、石や土の質感は“生きた記憶”であり、絵の中でそれを再構築しているとも言えます。

(2)岩肌・断崖・海峡の色彩と量感
天草の海に面した断崖や岩肌の風景は、彼の作品における色彩の深みと重量感の源泉です。その表現は、単なる風景描写ではなく、大地の力強さを“形と量感”として捉える造形的アプローチに昇華されています。
これは、自然を構造として見る視点であり、絵画を通して「地球の骨格」を描いているような印象を与えます。

(3)構造美とリズムの追求
宮崎の作品は、やがて構造美の探求へと進化し、直線や水平線の緊張感、リズム感を重視した造形へと展開します。天草の海の水平線や、波のリズム、岩の層構造などが、彼の構成感覚に影響を与えていると考えられます。
その結果、絵画は単なる風景ではなく、力と静けさが交錯する“構造的な詩”となっています。

宮崎康親の油絵は、天草の自然に育まれた感性と、古代人の造形への敬意が融合した、力強くも静謐な世界です。
彼の絵には、石の記憶・海のリズム・構造の緊張感が宿り、見る者に「大地の声」を感じさせるような迫力があります。
1.基本プロフィール

| 項 目 | 内 容 |
|---|---|
| 氏 名 | 宮崎 康親(みやざき やすちか) |
| 生年 | 1930年(S5年) |
| 出身地 | 熊本県天草郡苓北町坂瀬川 |
| 活動拠点 | 熊本市を中心に熊本県各地 |
| 主な技法 | 油彩、キャンバス、静物・風景画 |
| 所属 受賞歴 | 日展、東光展等入選、東光会審査員、山ノ内小など複数校で校長 水前寺幼稚園園長、大阪芸術大学講師、熊本県芸術功労者顕彰 など |
宮崎の故郷、坂瀬川。 その地から望む海は、まるで時を忘れさせるように、ゆったりと穏やかに広がっています。 海の向こう、指呼の間に島原半島が静かに聳え、左手には長崎の陸地が連なり、さらにその先には、東シナ海の水平線が遠く光を帯びています。
その風景は、陽光に包まれた日には、どこまでも優しく、雄大で、包み込むような温もりを湛えています。 けれど、風が吹けば、海は一変し、荒々しく、力強く、自然の威厳を見せつけます。
そんな移ろいゆく海と空の表情を、幼き日の宮崎は、胸の奥深くに刻み込んでいきます。 無垢で多感な感性は、波の音や風の匂い、岩肌の陰影に触れるたびに揺さぶられ、 やがてそれらは、彼の絵筆を通して、静かに、そして力強く語り出す情感となりました。
2.画業の歩み
| 年次 | 主な画業 |
|---|---|
| 1957(S32) | 銀光展・県教育委員会賞 |
| 1965(S40) | 東光展 奨励賞 |
| 1970(S45) | 東光会会員推挙 熊本市教育研究所研究員 |
| 1972(S47) | 銀光会審査員 日展入賞「農家の庭」 |
| 1973(S48) | ヨーロッパ7か国へ写生旅行(1か月間) |
| 1978(S53) | 日展入賞「装飾のある古墳」 |
| 1982(S57) | 校長・熊本県図工・美術教育研究会会長として県下で研究大会を実施 |
| 1985(S60) | 新設校(山ノ内小)校長 校歌を作詩 |
| 1989(H元年) | 東光会審査員 |
| 1990(H2) | 全国造形教育研究大会実施 実行委員長 |
| 1991(H3) | 公立学校退職 県立保育大学非常勤講師(絵画造形) 水前寺幼稚園園長 |
| 1993(H5) | 日展入賞「港」 |
| 1996(H8) | 湖東カレッジ幼児教育学科非常勤講師 |
| 1999(H11) | 日展入賞「島の教会」 |
| 2002(H14) | 銀光会副代表 大阪芸術大学非常勤講師 |
| 2004(H16) | 東光会熊本支部代表 近畿大学非常勤講師 日展入賞「島の教会」 |
| 2007(H19) | 教育美術功労賞 |
| 2009(H21) | 銀光会代表 |
| 2010(H22) | 熊本県芸術功労者 顕彰 |
*日展に幾度となく入賞するなど、画業の詳細は多岐にわたりますが、紙幅の都合上、主な活動のみを記載しています。
3.展示・活動歴
宮崎康親は、画家としての創作活動に加え、東光展・銀光展などの美術展においても中心人物として運営・審査・指導に携わってきました。また、教育現場でも後進の育成と地域文化の振興に尽力しました。
個展は、セルパン・熊日画廊・萌・県立美術館で10数回開催しています。
4.展示(寄贈)情報 県立美術館個展作品

作品《装飾古墳(弁慶が穴古墳)》は、山鹿市・平山温泉のお宿「湯の蔵」様に寄贈させていただきました。現在、食事室にて大切に展示していただいております。 心より感謝申し上げます。
なお、県立美術館での個展を契機に、いくつかの作品が新たな場所へと歩みを進めました。 その寄贈先を、以下に記録として残します。
| 作品名 | 展示(寄贈)先 | 所在地 | サイズ |
|---|---|---|---|
| 装飾のある古墳 | 城北高校 | 熊本県山鹿市志々岐798 | F100 |
| こいのぼり | しらぬい荘 | 宇城市松橋町竹崎1142-1 | F100 |
| 装飾古墳(弁慶が穴) | お宿 湯の蔵 | 山鹿市平山5255 | F100 |
| 磯(下田) | 一本松荘(特老) | 山鹿市鹿本町津袋450 | F100 |
| 展望(苓北) | 上記同 | F100 | |
| 海峡(1号橋より) | シルバー日吉(特老) | 熊本市西区平成2丁目6-9 | F100 |
| 初霜の頃 | 上記同 | F100 | |
| 漁村の秋 | るり苑(特老) | 熊本市東区上南部町1丁目16-36 | F100 |
| 南阿蘇の冬 | S 邸 | 熊本市南区内田町 | F100 |
| 島の教会 | 熊日新聞社(6F役員室) | 熊本市北区山室1-12-4 | F100 |
| 木立ち | 玉名司ホテル | 玉名市立願寺50-1 | F100 |
| 岬の教会 | 玉名女子高校 | 玉名市岩崎1061 | F100 |
| 楽園 | 済生会病院 | 熊本市南区近見5丁目3-1 | F100 |
| 煌めく楽園 | 水俣総合医療センター | 水俣市天神町1丁目2-1 | F100 |
| 島の教会 | 上記同 | F100 | |
| 磯 | 松島保険事務所 | 熊本市東区若葉1丁目6-6 | M60 |
| 南阿蘇の秋 | N 邸 | 熊本市中央区新大江 | P10 |
| 天草風景 | きたの胃腸科内科クリニック | 熊本市東区東本町1丁目43 | M30 |
| 南阿蘇 | K 邸 | 熊本市東区東本町 | F10 |
| 鬼海浦 | 城北高校 | 山鹿市志々岐798 | F100 |
| 港(香焼島) | 碩台小学校 | 熊本市中央区井川淵町4-8 | F100 |
| 楽園(海) | まちの胃腸科外科 | 熊本市東区東野2丁目4ー6 | F50 |
| 高原の秋 | 健軍東小学校 | 熊本市東区東町4丁目15-2 | M30 |
| 磯 | 国立病院機構熊本医療センター | 熊本市中央区二の丸1-5 | F10 |
⦿そのほか、熊本市長室や山ノ内小学校などにも、寄贈した作品が展示されています。
5.作品世界をさらに深く知るための手がかり
宮崎康親の絵は、風景を描きながら、記憶と感情をそっと呼び起こします。 ここでは、彼の作品とともに、制作の背景や語り、資料、そして本人が綴った「生い立ちの記」を通して、その世界を辿ります。 見る人それぞれの心に、静かに語りかける時間となりますように。
⦿作品ギャラリー



⦿生い立ちの記
宮崎康親が晩年に綴った「生い立ちの記」は、彼の絵に宿る静けさや余韻の源を垣間見ることができる貴重な記録です。 幼少期の記憶、家族との時間、風景へのまなざし――それらが、作品の根にある感情と深く結びついています。 絵を描く手の奥にある人生の軌跡を、言葉とともに辿ってみてください。以下は、宮崎康親が晩年に綴った自身の生い立ちの記録の抜粋です。
私は海辺の寒村(現在の苓北町)で生まれ育った。戦争の始まりとともに小学校に入り、終戦までの8年間を戦時下で過ごした。文化の恩恵に触れることのない貧しい環境の中で、自然との遊びだけが私の感性を育ててくれたように思う。 潮の匂い、岩場の海、季節の食べ物、小鳥や虫との出会い――それらが私の原風景となり、歳を重ねるにつれ、絵の中に海が多く描かれるようになった。 初任地・健軍では、戦後の食糧難の中で自炊生活を送りながら、絵とは無縁の毎日を過ごしていた。そんな中、山田文吉先生や田辺恭一先生との出会いが、私を銀光展へと導いてくれた。 人との縁が、絵へと向かう道を照らしてくれた。板に描いた初出品の6号、手作りのカンバス、絵画人口の少ない時代――そのすべてが、今の私の礎となっている。
*油絵用キャンバスについて
油絵用キャンバスには「F(Figure)」「P(Paysage)」「M(Marine)」という3つの型があり、それぞれに号数(サイズ)が設定されています。F100号のような大きなサイズだけでなく、M30号やP10号も市販されており、制作目的に応じて選ばれています。
本サイトでは、サイズ表記に「F100」「M30」などを添えることで、作品のスケール感や構図意図がより伝わりやすくしています。
(1)キャンバスサイズの種類と意味
| 型 | 意味 | 比率の特徴 |
|---|---|---|
| F型(Figure) | 人物画向け | やや縦長 |
| P型(Paysage) | 風景画向け | 横長(ワイド) |
| M型(Marine) | 海景画向け | より横長で広がりのある構図向き |
(2)サイズ例(日本規格)
| 号数 | Fサイズ(mm) | Pサイズ(mm) | Mサイズ(mm) |
|---|---|---|---|
| 10号 | 530 × 455 | 530 × 410 | 530 × 333 |
| 30号 | 910 × 727 | 910 × 652 | 910 × 606 |
| 100号 | 1620 × 1303 | 1620 × 1120 | 1620 × 970 |